「第2回」身近な防錆技術についてのお話①
アドコート(株)技術部の秋山と申します。
第1回は「気化性防錆紙の種類「含浸タイプ」「塗工タイプ」の違いについて」でしたが、第2回は私たちが普段の生活で使用する金属製品の防錆技術についてお話したいと思います。
防錆と聞くと、自動車部品や鉄鋼品、建築物など工業的なイメージをする方が多いかもしれません。
しかし、私たちの身近な金属製品の多くには「防錆技術」が使われています。
特に日用品では、キッチンなどの水回りで使用されるステンレス製品やホーロー加工品など、多くの錆びにくい金属製品があります。このような製品に使われる防錆技術は近代科学の発展によって実現したものですが、日本にはもっと古い時代から使われている防錆技術があります。
今回は、そのひとつであり、伝統工芸品でもある「南部鉄器」に使われている防錆技術についてお話しします。
〇南部鉄器の防錆技術
南部鉄器(主に鉄瓶)は、鋳型に融けた鉄を流しこみ、鉄が冷え固まった後に行う、「金気止め」と呼ばれる「表面処理」工程があります。
「金気止め」とは、木炭炉中で800~1000°Cの温度で焼き入れを行うことあり、この工程によって鉄の表面全体に「水に溶けない酸化被膜」ができ、錆に強い鉄製品となります。
しかし、この「金気止め」工程でできた酸化被膜も、万能ではありません。擦ったり削れたりで表面の酸化被膜がはがれることで、その下にある無垢な鉄がむき出しになり、その部分が錆につながります。
そこで、南部鉄器では使い始めや使用中には注意が必要になります。
ここでは、南部鉄器の使い初めに推奨されている二つの方法を紹介したいと思います。
一つ目の方法は、使い初めにお湯を何度か沸かして捨てる方法です。これにより、水道水に含まれる微量のカルシウムが鉄表面に付着し、酸化被膜の欠陥部分を埋めることで錆の発生を防ぎます。カルシウムはミネラルの一つで、ミネラルの含有量が多い硬水を煮沸する方法を勧めている場合もあります。
二つ目の方法は、お茶の葉を入れて煮沸する方法です。茶葉を入れて煮沸することで、茶葉に含まれるタンニンという成分が鉄と反応して「黒色塩」を生じ、一つ目と同様に酸化被膜の欠陥部分を埋めることで錆の発生を防ぎます。
カルシウムとタンニン鉄黒色塩はどちらも、水に溶けない性質を持ち、鉄瓶の内側を錆に強い状態を維持します。
つまり南部鉄器は、「金気止め」による「酸化被膜」と、「カルシウムの付着」や「タンニン鉄黒色塩」による「防錆被膜」という「防錆技術」によって錆に強い金属製品となっているのです。
以上、「南部鉄器」に使われている「防錆技術」についてお話させていただきました。
次回は細川の担当になりますが、次々回も「身近な防錆技術」をテーマにお話したいと思います。
【秋山】