第17回/全17回 間違えがちな防錆紙の基礎知識②
気化性防錆紙には気化性防錆剤が使われているから気をつけなければいけない、いずれはただの紙になってしまう。という心配をもっていませんか? あるいは、気化性防錆紙には気化性防錆剤が使われているから、防錆紙から離れた場所でも十分な効果を期待できる。という期待をもっていませんか?
皆さんは「気化性」と聞いたときどんなものを思い浮かべますか。注射の前に行う消毒用のアルコール? トイレに置く芳香剤? いずれもキャップをして密封しておかないと無くなってしまいますね。これらはいずれも気化性が高い物質を使っているためです。では、水はどうでしょうか。たしかに蓋をしないでコップの中に入れた水は蒸発して量が減り,いずれは無くなってしまいますよね。しかし、見る間に無くなるほど速くはないでしょう。では,水を温めてお湯にしたらどうでしょう。こんどは見る間に減ってゆくのが実感できると思います。
さて、防錆紙の場合はどうなるか説明しましょう。図2をご覧ください。
この図は気化性防錆剤などいろいろな物質の蒸気圧と温度との関係を示しています。横軸に温度をとって、縦軸には蒸気圧を対数スケールで示しています。対数スケールですから,一目盛は10倍になります。どんな物質でも右上がりの曲線になっていますね。これは温度が高いほど蒸気圧が高くなるためです。
一番上に描かれた曲線が「水」です。先ほど,水とお湯でたとえ話をしましたが、20℃の水を温めて60℃のお湯にすると蒸気圧は一桁、つまり10倍大きくなります。この蒸気圧が大きいということは,気化しやすいことを示しています。
気化性防錆剤の代表格であるDICHANは水よりも4~5目盛も下にあります。つまり、DICHANの蒸気圧は水の1~10万分の一の大きさということです。いまは見ることもなくなった水銀は気化する金属として有名ですが,その水銀よりも小さな値です。服ダンスに入れる防虫剤のショウノウよりも3桁も小さい蒸気圧なのです。DICHANが気化するといっても,すぐになくなるほどではないことをお分かりいただけたでしょうか。
防錆紙に使われる物質の蒸気圧はすべて知られているわけではありませんが,気化しやすいものでも,その蒸気圧はDICHANより1桁ほど大きい程度でしょう。
「気化性防錆剤」と聞いて,「どんどん気化していってしまうもの」というイメージを持っているとしたら,「気化性」という言葉にひきずられているのでしょう。正しい知識を身につけて感覚的ではなく理性的に判断して欲しいものです。