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Column 技術屋の解説

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2015.04.01

第16回/全17回 間違えがちの防錆紙の基礎知識①

今回のタイトルにはあえて「防錆紙」を使用して「気化性防錆紙」とは書きませんでしたが、なぜ「防錆紙」と言ったり「気化性防錆紙」と言ったりするのでしょうか。今回のお話は「気化性」という冠の言葉にかかわる歴史物語です。

このふたつの呼び方は同義語として昔から長いこと使われてきました。

世界で最初に発明された防錆紙は「VPI(ヴイピーアイ)紙」と呼ばれるもので、第二次世界大戦の末期にUSAのシェルの技術者たちが発明しました。この防錆紙に使われた防錆剤は「DICHAN(ダイカン)」の略称をもつ新発明の物質で、わずかですが「気化性」がありました。当時、気化性のない防錆剤はよく知られていましたから、「DICHAN」は「気化性防錆剤」という位置づけになったわけです。シェルの技術者たちは、この紙で鉄鋼製品を包装しておくと、防錆紙と製品が完全に密着していなくても十分に錆の発生を防ぐことができることを発見しました。DICHANが防錆紙から気化することで防錆効力を発揮していたのです。言い換えれば、「VPI紙」は「気化性防錆剤」を紙に応用した製品だったのです。

ちなみにこの「VPI紙」を初めて国産化したのが、私が以前に勤務していた日本加工製紙という会社で、シェルからの技術導入で「NKVPI」の名前で製造販売していました。写真2に当時の技術資料の1ページ目を示します。1955年の発行ですからもう60年も前のものですが、まだこの技術は廃れてはいません。日本加工製紙が無くなった今でも「NKVPI」は製造販売されていますし、当社のアドパックホワイトは「NKVPI」の技術を受け継いでいます。

当時の日本にはNKVPIしかなく、気化性のない防錆剤をつかった防錆紙は存在していませんでした。1959年に「気化性サビ止メ材」の名前でJISが制定されましたが、対象となっているのは気化性防錆剤のDICHANと気化性防錆紙のVPI紙だけでした。

つまり、「防錆紙」は「気化性防錆紙」の呼び方を省略したものでした。

その後、USAから「VPI紙」に対抗する新開発の防錆紙が技術導入されて種類が増えたことから、1973年に気化性防錆紙の規格はそれまで気化性防錆剤と一緒だったJIS Z 1519から独立してJIS Z 1535 となりましたが、「防錆紙」と「気化性防錆紙」は同義語という状態は変わりませんでした。

しかし、時代を経て「気化性」のレベルがVPI紙などにくらべて小さい防錆紙やほとんど気化性のない防錆紙が登場するようになって、「防錆紙」と「気化性防錆紙」を区別しないと混乱するようになってきました。

そこでJIS Z 1535は大改正を行うことになり、数年間の議論を重ねて、昨年ようやく実を結びました。表題も変更するという大きなJISの改正で、鉄鋼用の防錆紙には「気化性タイプ」と「接触タイプ」があることが明記されて少しは分りやすくなったと思います。JISでは前者を「気化性防錆紙」、後者を「接触式防錆紙」と呼ぶことになっています。もちろん、鉄鋼用の防錆紙についてであって、銅や銅合金用の防錆紙は別のJISで規定されています。

写真2 VPI紙の技術資料(1955年)

             

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