
世界で初めて防錆包装が体系づけられたのはアメリカとイギリスで、その歴史的背景は米軍が第2次世界大戦の南太平洋戦線において兵器や軍需品の極東への海上輸送や高温多湿な現地における保管で、かつて経験したことのない発錆に悩まされ、防錆包装の研究を始めたことによります。
そのとき発明されたのが気化性防錆剤ダイカン(商品名:VPI)であり、それを紙に応用したのが気化性防錆紙(アドパックホワイトに相当)です。
この研究の結果、1944年にアメリカではAN-P-13aが、イギリスではBS-1133のなかに、それぞれ防錆包装方法が体系づけられました。そののち、アメリカにおいてAN-P-13aが陸海空の三軍統一の米軍仕様書(Military specification)に発展してMIL-P-116となり、世界を代表する指針となり各国に広まりました。
わが国では,このMIL規格を基準にして1959年に初めて日本工業規格としてJIS Z 0303(さび止め包装方法通則)が制定され、同時に気化性防錆剤および気化性防錆紙に関する製品規格JIS Z 1519(気化性サビ止メ材)が制定されました。
これらの規格が生まれた当初、気化性防錆剤はダイカンのみに限定されていましたが、その後、ダイカン以外の気化性防錆剤が開発されて気化性防錆紙への使用が広まるにしたがい、1973年、気化性防錆紙の製品規格がJIS Z 1519から独立してJIS Z 1535(気化性さび止め紙)として制定されました。
その後JIS Z 1519およびJIS Z 1535は基本的な試験法には大きな変化がなく今日に至っています。一方、JIS Z 0303は制定後2回の大きな改正を経て来ましたが、最後の改正から20年を経る間に様々な問題点が多数出てきました。それを受けて、2009年に大幅な改正を行いました。
また、以前は防錆の対象といえば鉄鋼だけで、JIS Z 1535は鉄鋼用気化性防錆紙の規格でしたが、近年になり銅系金属への防錆ニーズが高まったのを受けて、1997年に銅用気化性防錆紙の製品規格JIS Z 0321が制定されました。
なお、国際規格であるISOには気化性防錆紙,気化性防錆剤,防錆包装のいずれについても規定はありません。
この規格は鉄鋼用気化性防錆紙の防錆性能について規定しています。
この規格に規定している気化性さび止め紙として必要な特性は、
1)気化性さび止め性・・・鉄鋼に対する気化性防錆力があること
2)ばく露後の気化性さび止め性・・・気化性防錆紙を高温に一定期間ばく露したのちでも鉄鋼に対する気化性防錆力が
あること
3)接触さび止め性・・・鉄鋼を密着包装したとき防錆力があること
4)鉄鋼以外の金属への悪影響(非鉄金属との共存性)・・・銅、アルミに対して腐食のないこと
5)ポリエチレン加工紙との共存性・・・ポリエチレンに対して悪影響がないこと
この5項目が基本的に必要な特性になっています。
なお、上記4)項については、銅及びアルミニウムに対する悪影響をテストし、気化性防錆紙が鉄鋼にだけ使用すべき限定用(2種)か、それとも、銅・アルミの非鉄金属に悪影響のない全般用(1種)かを判定するものです。
この試験は気化性防錆紙の鉄鋼に対する気化性防錆力(Vapor Inhibitor Ability)をテストするもので通常VIA試験と言われています。気化性防錆紙と鉄鋼を接触させずに保持したまま鉄鋼を強制的に結露させて錆びさせます。いいかえれば、気化性防錆紙に含まれる気化性防錆剤が鉄鋼の錆を防ぐ性能があるか調べる試験方法です。この試験法では、高い湿度の環境の下で鉄鋼を急冷させるために、鉄鋼には非常に激しい結露が生じます。このように、非現実的な結露作用の中で気化性防錆剤の性能のテストしますので、非常に過酷な試験であるといえます。
図‐1のように、グリセリン水溶液を用いて湿度90%に保たれた広口びん内に鉄鋼の試験片と気化性防錆紙を隔てて、20℃に保持します。一定時間後、アルミニウム管の上部から試験片のうがった穴部に冷水(2℃)をそそいで試験片を結露させ、3時間後にそのテスト面の発錆の有無をチェックし、気化性防錆紙の性能を判定します。
図 - 1 VIA試験のようすH形・・ 1時間後に鉄鋼の試験片に結露させ、試験片に発錆が認められないものをいう。
L形・・ 20時間後に鉄鋼の試験片に結露させ、試験片に発錆が認められないものをいう。
すなわち、H形の気化性防錆紙の方が速効性であるといえます。
●H形のテスト(1時間後に結露)
アドパック GK−7使用
ブランク●L形のテスト(20時問後に結露)
アドパック TK−610 使用
ブランク この試験の目的は、未使用の気化性防錆紙から徐々に気化喪失する気化性防錆剤のなくなりにくさを評価するものです。
気化性防錆紙を、60℃の無風状態で所定時間、防錆加工面を上にしてばく露して気化性防錆剤の一部を気化喪失させたのちに、前述の気化性さび止め性のL形のテストを行ない、錆の有無を判定します。
1等級・・・ 120時間ばく露後に気化性さび止め性に合格するも。
2等級・・・ 48時間ばく露後に気化性さび止め性に合格するもの。
3等級・・・ 24時間ばく露後に気化性さび止め性に合格するもの。
すなわち、1等級がもっとも気化性防錆剤がなくなりにくいといえます。
ただし、H形の気化性防錆紙でもばく露後の気化性さび止め性はL形で評価しますから、ばく露後でもH形の能力を保持しているとは限りません。H形の気化性防錆紙でもL形の性能は基本的に保持していなければいけないと考えると良いでしょう。
この試験は鉄鋼と接触した状態での防錆力をテストするものです。
鉄鋼(SPCC)の試験片を写真1のように気化性防錆紙で包み、グリセリン水溶液を用いて湿度95%に保った密閉容器の中に置き、5℃と50℃にそれぞれ設定された2つの恒温槽を用いて一定時間毎に入れ替えることによって強制的に結露を繰り返します。その後、発錆の有無をチェックし防錆力を判定します。
この試験法では気化性防錆紙を介して結露するため、気化性防錆紙の紙質(複合化のようす)による影響を受けます。この点が気化性防錆剤だけの効果を調べる気化性さび止め性の試験と大きく異なるところです。
写真1 梱包形態


●接触さび止め性試験後の試験片
50℃、95%RHに16時間、5℃、95%RHに8時間保持する。これを1サイクルとして、2サイクルで試験をした結果。
アドパックGK−7(M)使用
ブランク(防錆紙用中性クラフト使用)| 種類 | 形 | 等級 | 気化性防錆力 | ばく露後の気化性防錆力 | 接触防錆力 | 非鉄金属への悪影響 | PEラミ紙への影響 | |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 銅 | アルミ | |||||||
| 1種 | H型 | 1等級 | 速効性 | 120時間ばく露に合格 | 有 | なし | なし | なし |
| 2等級 | 48時間ばく露に合格 | |||||||
| 3等級 | 24時間ばく露に合格 | |||||||
| L型 | 1等級 | 遅効性 | 120時間ばく露に合格 | |||||
| 2等級 | 48時間ばく露に合格 | |||||||
| 3等級 | 24時間ばく露に合格 | |||||||
| 2種 | H型 | 1等級 | 速効性 | 120時間ばく露に合格 | 有 | 有 | 有 | なし |
| 2等級 | 48時間ばく露に合格 | |||||||
| 3等級 | 24時間ばく露に合格 | |||||||
| L型 | 1等級 | 遅効性 | 120時間ばく露に合格 | |||||
| 2等級 | 48時間ばく露に合格 | |||||||
| 3等級 | 24時間ばく露に合格 | |||||||
この規格は、銅及び銅合金の防錆に用いる気化性防錆紙について規定されています。
1種と2種があり、1種は銅に対してのみ使用できるもの、2種は黄銅、りん青銅にも使えるものです。
この試験は気化性防錆紙の銅及び銅合金に対する気化性防錆力をテストするものです。気化性防錆紙と銅または銅合金とを接触させずに保持したまま銅または銅合金を結露させ、気化性防錆紙に含まれる気化性防錆剤が銅や銅合金の錆を防ぐ性能があるか調べる試験法です。
気化性防錆紙を広口びんの内側に貼り付け、試験片をびん上部のゴム栓から吊るします。それを30℃の恒温槽中で18時間保持したのちに、室温に1時間保持し、その後、びんの中に水を入れて内部を湿度100%にし、5℃と50℃の2つの恒温槽を用いて一定時間毎に入れ替えて試験片を強制的に結露させます。
その後、腐食の有無をチェックすることで気化性防錆紙の性能を判定します。
この試験は銅または銅合金と接触した状態での接触防錆力をテストするものです。
銅または銅合金の試験片を気化性防錆紙で包み、グリセリン水溶液を用いて湿度95%に保った密閉容器の中に置き、銅及び黄銅は7日間、りん青銅については3日間、50℃に保持し、その後室温に戻したのち、腐食の有無をチェックし接触防錆力を判定します。
| 種類 | 試験片 | 気化性防錆力 | 接触防錆力 | PEラミ紙への影響 |
|---|---|---|---|---|
| 1種 | 銅 | 有 | 有 | なし |
| 黄銅 | なし | なし | ||
| りん青銅 | なし | なし | ||
| 2種 | 銅 | 有 | 有 | なし |
| 黄銅 | 有 | 有 | ||
| りん青銅 | 有 | 有 |
※清水良直:コーティング、加工技術協会、p259(2002)より引用
| 種 類 | JIS Z 1535 | JIS Z 0321 | |||
|---|---|---|---|---|---|
| 気化性 | 接 触 | 気化性 | 接 触 | ||
| アドパック‐G | 鉄鋼用含浸タイプ | 合 | 合 | 不 | 不 |
| アドパックホワイト | 長期鉄鋼用塗工タイプ | 合 | 合 | 不 | 不 |
| アドパック‐S | 鉄・非鉄金属共用含浸タイプ | 不 | 合 | 合 | 合 |
| アドパック‐C | 銅・銅合金用含浸タイプ | 不 | 不 | 合 | 合 |
| アドパック‐ZV | 亜鉛メッキ鋼板・鉄鋼-KD梱包用 | 合 | 合 | 不 | 不 |
| アドパック‐ZP(特注品) | 亜鉛・鉄共用 | 不 | 合 | 不 | 不 |
| アドパック‐SN(特注品) | 表面処理鋼板用(食缶用) | 不 | 合 | 合 | 合 |
注) 合:合格 不:不合格